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東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)31号 判決

原告 箱木一郎

被告 株式会社 夏目ローラ工業所

主文

特許庁が昭和二十九年抗告審判第二四四四号事件について、昭和三十三年七月一日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として次のように述べた。

一、被告は実用新案登録第四〇六一九七号「平版用給水ローラの構造」の権利者であるが、原告は昭和二十九年二月五日被告を被請求人として、別紙イ号図面及びその説明書に示す「オフセツト印刷用水ローラー」は、被告の有する右登録実用新案の権利の範囲に属しないとの審判を請求したところ(昭和二十九年審判第四〇号事件)、特許庁は同年十月二十日原告は右確認審判を請求する利害関係がないとして、原告の審判の請求を却下する旨の審判をなした。原告は同年十二月十一日右審決に対し、抗告審判を請求したが(昭和二十九年抗告審判第二四四四号事件)、特許庁は昭和三十三年七月一日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、右審決の謄本は同月十七日原告に送達された。

二、右審決の要旨は、次のとおりである。

(一)  原告が、その有する実用新案登録第三九九九六五号の実用新案権を、訴外株式会社金陽社に実施を許諾している事実及び、株式会社金陽社が(イ)号図面及びその説明書に示すローラーを製作販売している事実は認められるが、原告が自ら又は委嘱して、これを製作販売している事実は認められない。

(二)  原告の有する実用新案登録第三九九九六五号も、(イ)号図面及びその説明書に示すローラーも、印刷用ローラーであつて構造の一部で一致するところがあるとしても、その実用新案登録はモルトンを被覆しないで用いることを特長とするものであつて、モルトンを使用する(イ)号図面及びその説明書に示すローラーはその登録実用新案を実施するものとは認められず、本件の確認の対象である(イ)号図面及びその説明書に示すローラーを、前記実用新案登録第三九九九六五号の実施の態様として原告が株式会社金陽社に実施させているものとは認められない。

(三)  従つて、右訴外会社が被告により(イ)号図面及びその説明書に示すローラーを対象として、本件実用新案登録第四〇六一九七号によつて対抗されるとしても、それと構造を異にする前記実用新案登録第三九九九六五号の権利者である原告は対抗されることはないものと認められる

(四)  従つて原告は(イ)号図面及びその説明書に示すものを対象として本件確認審判を請求するにつき利害関係を有しないものである。

三、しかしながら原告は、昭和二十八年当時、訴外株式会社金陽社と共同して(イ)号図面及び説明書記載のローラーを製作すべき契約を締結し、爾来その製作の事業を営んでいるものであつて、本件権利範囲確認審判の請求につき、利害関係を有するものである。この点を看過してなされた審決は違法であつて取り消さるべきものである。

第三被告の答弁

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は争わない。

二、同三の事実は否認する。

第四証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争がない。

二、その成立に争のない甲第三、四号証及び証人加地隆の証言を総合すれば、原告は印刷関係において幾多の発明、考案をなし、特許権及び実用新案権を有しているものであるが、ゴムローラー、ゴムブランケツト、印刷用ゴム製品、工業用ゴム製品等の製造販売を目的とする訴外株式会社金陽社に対し、これら特許権、実用新案権を提供し、その技術指導をなし、右会社の経営について、技術面の責任を負担しており、本件(イ)号図面及び説明書に記載されるローラーは、原告がその考案に基いて、右会社をして製作販売せしめているものであることが認められる。(この点は、被告も、特許庁に提出した答弁書―本件における甲第四号証―に、「請求人(原告)は、前記金陽社との提携のもとに、本件実用新案登録第四〇六一九四号を剽窃したるに等しき(イ)号図面及び説明書記載のオフセツト印刷用水ローラーを(中略)、他人に委嘱して製作を開始したる事実に対しては、被請求人(被告)としても、極めて重大なる利害関係の発生を見たるものにして(下略)」と記載している。)

してみれば原告は、みずからが技術面の責任を負担し、その考案に基いて訴外会社をして製作販売せしめている「イ」号図面及びその説明書記載のローラーについて、これが被告の有する前記実用新案権と牴触せず、これを侵害するものでないことを主張して、右実用新案権の範囲確認の審判を請求するについて、利害関係を有するものと解するを相当とし、この場合、審決が判断したように、右「イ」号図面及び説明書記載のローラーが、原告の有する実用新案登録第三九九九六五号の実施であるかどうかは、すくなくとも本件における前記利害関係の有無を判定するには、直接の関係を有するものでないといわなければならない。

三、以上の理由により、原告が本件について確認審判を請求するについて利害関係がないとした審決は違法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

第一図〈省略〉

第二図〈省略〉

イ号図面説明書

1. 図面に示す物品の名称

「オフセツト」印刷用水「ローラー」

2. 図面の略解

第一図は全体の縦断面図第二図は側面図である

3. 構造、作用及効果

芯軸(1)上に「エボナイト」、「ベークライト」又は真鍮等の如き「ゴム材」と親和する材料に依り筒体部(2)を構成し其の上に「スポンヂゴム」層(3)を設定し其等の両側に鍔縁(4)を設着し且其の表面を「モルトン」(5)を以て被包して成るものである尚普通筒体部(2)と「スポンヂゴム」層(3)との間に「ゴムシート」の中間層(6)を介在させる

其の作用及効果の主たる所は即ち「スポンヂゴム」層(3)が存するから吸水性が豊かであつて水の含蓄量多く且「ローラー」として柔軟性に富み版面との接触が良好である

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